未来ーサキーの見えない明日までも。



 その日は朝から非常に暑く、クーラーをつけたくなるほどの猛暑だった。しかし時枝家の決まりで、クーラーをつけて良いのは就寝前から就寝後の五時間のみ。

 それを忠実に守り、扇風機を回すだけ。祥花はそれにいつも文句をつけるのだが、今日は違った。

 暑くて堪らないはずなのに、楽しそうな顔をして勉強に励んでいる。


 気味が悪いと言われても仕方ないにやけ顔で、鼻唄を歌いながら英語の語彙問題を解いていく。

 奏多は部屋に二人でいる事が物凄く嫌になり、何度も下に下りようとしたが、祥花がにやけ顔でそれを阻止した。


 そうして結局、子ども部屋で二人向き合って夏休みの宿題に取りかかる始末。奏多は深い溜め息を吐く。


 祥花が異様にご機嫌なのには相応の訳がある。町内で行われる夏祭りだ。

 毎年この夏祭りの日に祥多の仕事が重なり行かずじまいか、奏多や克利、美月達と行くかのどちらかだったが、今日は違う。

 祥多が数年振りに夏祭りに都合がついたのだ。

 父親っ子の祥花にはそれが相当嬉しかったらしく、ご機嫌なのだ。


「何がそんなに嬉しい」

「今日は特別。みんなで行くけど、奏多はトシ君達と歩いてね。私はお父さんと並んで歩く」

「ファザコン」

「人に言えんの、奏多?」

「………」


 珍しく強気な祥花に、奏多は押され気味。


「ずっと考えてた事が、今日やっと叶うんだよ。楽しくない訳がないっ」

「───?」

「内緒。後でね。あー、凄く楽しみ」


 一人でムフフと笑い、祥花はページを捲って次へ進んだ。ご機嫌だと勉強もはかどる様子。


 ──祥花の言う“ずっと考えてた事”が思い浮かばない。

 何をずっと考えていたのか。何故、今日でないと叶わないのか。

 ぐるぐると考えを張り巡らせていた奏多だったが、実際はそう大した事ではない事を、夕方、出向いた花園家から戻って来た祥花から知らされる。


 真剣に深く考えていた自分が阿呆らしく思えた。
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