未来ーサキーの見えない明日までも。
 鳴り響いた呼び鈴にドアを開けると、出て行った時とは随分違う格好の祥花。


「どーよ、奏多」


 藍色の生地に、朝顔が咲いた浴衣。それを見せびらかす。

 初めて見る祥花の浴衣姿に、馬子にも衣装とはこの事だなと奏多は感心する。


「お父さんは?」

「リビング」

「よぅし」


 下駄を脱いでバタバタと廊下を駆け、リビングに飛び込む。祥多の姿を目に止め、すぐさま抱きついた。


「祥ちゃんっ! 似合う?」


 じゃーん、と浴衣を見せ、満面の笑みを浮かべる祥花。


「サヤ……」


 驚いたような切ないような複雑な顔をして祥花を見つめた。


「美香子さんに着付けてもらったの。お母さんが大学生の時、毎年二人で夏祭りに出かけたんでしょ? お母さんは、この浴衣を着て」

「……ああ。美香子に聞いたのか」

「うん。だから、お父さんと夏祭りに行く事になったらこの浴衣着せてねって頼んでたんだ」

「そうか。よく似合ってる」

「ほんと?」

「……こうやって見ると、ほんと花音そっくりだな、サヤ」

「それ最っ高の褒め言葉! 早く行こ? みんな外で待ってるよ」

「ああ」


 祥多は腰を上げ、祥花に手を引かれるままに家の外へと導かれる。

 外には、克利や美月、達樹が首を長くして待っていた。


「こんばんは、おじさん」

「遅いよ、三人ともー」

「さっさとしろよ!」


 待っていた三人は代わる代わる口にする。


「ごめん、ごめん。じゃ、行こっか」


 祥花は祥多の手を引き、並んで歩いた。二人の後に克利と達樹、奏多と美月が続く。


 大通りに出ると、たくさんの提灯や飾りつけが六人を出迎えた。これは祭りの会場である町の陸上競技場まで続いている。

 ちらほらと親子連れが見受けられる。


「姫の今日のお相手は、おじさんなんだ?」

「邪魔すんな、と。美月さんも今回は浴衣なんですね」


 言われて美月は自身の格好を今一度見つめる。淡い水色の生地に花火という柄の浴衣。
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