未来ーサキーの見えない明日までも。
「うーん。あの子のおじさんに対する態度って異常だよね」


 男二人の間を歩く美月がぼやく。


「しょうがないんじゃないか? もうおじさんしかいないんだし。それに40目前にしてあの若さじゃ自慢の父親だと思うぞ」


 克利がさほど問題でもないという風に言う。


「まぁ確かにおじさんはおじさんって呼んでいいのか躊躇うほど老けてないし、有名なピアニストでもあるからご自慢なのは分かるけど」


 口をすぼめ、まだ納得がいかない様子で腕を組む。


「何が言いたいんですか」


 奏多が呆れた口調で真意を問うと、美月は真剣な面持ちで声を潜めて言う。


「異性としてのおじさんが好き──なんて事ないよね」


 あまりにも想像通りの言葉に、奏多は脱力する。

 本当に女というものは。何でもかんでも深い意味に捉えては、あれやこれやと詮索する。面白おかしく首を突っ込む。

 美月が嫌いな訳ではないが、そういうところは快く思えない。

 第一、祥花が祥多にやけに構うのは何か祥多に対して後ろめたい事がある時だけだ。

 心配させまいと明るく振る舞い、祥多が勘繰る暇もないほどに構う。


 今日は祭りで浮かれているのが大部分だろうが、春辺りから祥花は祥多によく構う。少なからず、後ろめたい何かがあるらしい。

 春辺りから──それで気づくのは里田の一件。それしか思い浮かばない。

 あんな事があったという事を、心配させない為とは言え、たった一人の父親に黙っている事は後ろめたく心苦しいのだろう。


 そんな事を考えながら前方を見やると、祥花が祥多にたこ焼きを買ってもらっていた。


「奏多、お前達も何か食べるか?」


 祥多がこちらを振り返り尋ねて来る。指名されたのは奏多だったが、答えたのは美月だった。


「私達は花火見ながら食べる。先に射的とかやって来るねー」

「そうか。サヤは?」

「私はご飯が先。お腹ペコペコ」

「分かった。じゃあ一時間後にこの屋台前な」

「了解! 行こ、奏多、克利」
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