未来ーサキーの見えない明日までも。
「しょうがないな。特別に良い事教えてやる」


 特別にという言葉に皆が敏感に反応し、車内はシーンと静まり返った。

 コホンとわざとらしく咳払いをすると、山城は“良い事”を話し出す。


「浅霞山に永年伝わる言い伝えなんだがな、浅霞山には一本だけ──本当に一本だけな──どういう訳か毎年、少しの葉しかつけない木が山のどこかに出現するらしい」


 少しの葉がどれくらいなのかが分からずに皆が首を傾げていると、山城が、大体四~五枚だそうだと付け足す。


「そしてその木を見つけ、葉を手に入れると、一つだけ願いが叶うんだそうだ」


 まるでお伽噺のような山城の言葉に、皆は一斉に笑い出した。あまりにも信憑性の低い作り話だと。

 すると山城は真剣な面持ちで言葉を続ける。


「冗談だと思うだろ? 私もそう思っていたんだかな、六年前の秋に浅霞山でその木を見つけたんだ」

「えっ……」


 皆、山城の言葉に笑いを収める。


「その時、先生は大学受験を控えててなー。でも第一志望の国立大はいつもE判定だった」


 皆、ゴクリと唾を呑む。


「担任の先生にも別の大学にした方がいいって毎日勧められてた。そんな時、浅霞山の言い伝えを耳にしたんだ」


 バスの前方には、聳え立つ浅霞山。


「藁にもすがる思いで、その木を探しに行ったんだ。そして見つける事が出来た」

「それで…?」


 山城は受かったのだろうかと皆がヒヤヒヤして山城の言葉を待つ。


「受かったよ。今でも大事に、その葉を持ってる」


 山城は縦縞シャツの胸ポケットから紅葉の栞を取り出した。

 それを皆に見せる。


「信じる、信じないはお前達次第だ。けど、賭けてみる価値は充分あると思うぞ」


 爽やかに笑った山城に、皆、目の色を変えた。視線は既に浅霞山へ向かっている。


「どうだ? 少しは楽しそうに思うだろ、紅葉狩り」


 にっこりと笑みを浮かべた山城を見ている者は、誰一人としていなかった。
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