未来ーサキーの見えない明日までも。
 燦然と輝いた目を浅霞山に向かけている。

 皆、現金な奴らだと奏多や克利は呆れる。


 祥花は睨みつけるような目で浅霞山を見つめていた。


 ──大嫌いな紅葉に祈れば、大好きな母は帰って来るのだろうか。

 叶わないと知りながら、皮肉めいた事を思う。

 この時期になると、祥花は鬱な気分で毎日を送っている。大嫌いな紅葉が至る所にあるからだ。


 母の事はもう吹っ切れた。祥花自身、そう思っている。

 それなのに、毎年この時期になると若くして逝った母を思い、紅葉を睨みつけてしまう。


 母は鮮やかに散る紅葉を窓の外に、最期まで精一杯苦痛に耐えて逝った。

 真っ白な病室に一点だけ映えた紅は、身の毛が弥立つほどに生々しく鮮明に目に映った。


「はぁ…」


 いけない。思い出せば涙が溢れる。

 苦しんでいる母を前に動けなかった幼き自分が、憎らしく思えてしまう。


 祥花は隣の女子に気づかれないように深呼吸をし、下車した。















 午前中は何をやるのかと言うと、宝探しだった。

 先生方が事前に隠した硬式の野球ボール五球を探し当てる、というもの。


 これまた下らない──と肩を落とした生徒達だったが、学年主任の一言によって俄然やる気を見せた。


「見つけた人には豪華賞品が待っている! ボールには数字が記入されており、1が苦手科目へのプラス点、2が千円分の商品券、3が五百円分の図書カード、4が文房具セット、5が一回清掃休み券だ!」

「おおぉぉぁっ!!」


 生徒達が目に炎を宿し、立ち上がる。


「さあ散れ! 制限時間は三時間だー!!」

「わあぁぁっ!」


 生徒達は一斉に散らばる。賞品がかかると目の色が変わる、現金な三学年生徒達だ。


「行こ、サヤ!」


 数人の女子が祥花に声をかける。が、祥花は小さく首を横に振る。


「ごめん、あんまり気分が良くないんだ。ここで休んでるね」

「え、大丈夫?」

「平気、平気。ほら、早く行かなきゃ取られるよ」
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