未来ーサキーの見えない明日までも。
「うん……じゃあ、行くね」

「ん、頑張ってね」

「サヤも無理しちゃダメだよ?」

「ありがと」


 祥花が礼を言うと、皆、祥花を残して宝探しに混じって行った。


 一息吐き、岩の上に腰を下ろす。


 目に映る全ての紅が、祥花の気分を悪くする。


 目を閉じ、目を覆う。

 見たくない。見れば見るほど気分の悪さは増す。


 どうしたものかと思い悩んでいると、トンと背合わせして来る者がいた。

 驚きで一瞬目を開くが、安心して再び目を閉じる。

 すぐに分かる。この温かく、さりげなく気遣うような優しい背中は──自分の片割れのもの。

 無口だった(いや、今もそうだが)彼の精一杯の愛情表現。何も言わず、何も訊かずにただ静かに寄り添う。もちろん、深刻な悩みを抱えている時は訊いて来るが。


「お、時枝姉弟。どうした、参加しないのか?」


 山城が近寄って来る。

 祥花はうっすらと目を開け、山城を見る。


「少し気分が悪くて」

「大丈夫か? 横になったりとか」

「座ってるだけで平気です」

「そうか。奏多は?」

「不得意科目はありませんので」

「まあ確かに。けど、商品券とかもあるんだぞ?」

「……面倒臭いんで」

「分かった。祥花、きつくなかったら言えよ。その辺にいるから」

「はい」

「奏多、気が向いたら参加しろ。じゃ」


 山城は用件が済むと、だんだんと遠ざかって行った。辺りには、学年主任や数人の生徒達。先生方は安全の為に巡回しているのだろう。

 そう思い、奏多は文庫本に目を落とす。読み途中の八行目の文章の羅列を追いかける。


「私、紅葉って嫌い」

「ん」

「人の血を吸い込んだみたいに紅くなる」

「ん」

「お母さんが死んだ時の事、思い出す」


 か細く、泣き出しそうに震えた声が奏多を揺さぶる。

 母の死以来、祥花が紅葉が嫌いになった事を奏多だけが知っていた。
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