未来ーサキーの見えない明日までも。
 知っていても、何も出来なかった。

 血の気が薄れて行く母と引き換えに、ますます紅くなっていった紅葉。


 奏多自身、気分を害するほどではないが、紅葉はやはり好きにはなれない。


「お母さんが死んだ事は受け入れられるけど、あの時の恐怖だけは受け入れらんない」


 祥花はぎゅうっと手のひらを握り締める。


「お母さん、怒るよね。一番上の私がしっかりしないと」


 自分に言い聞かせるように、祥花は言った。

 奏多は聞くに耐えず、口を開いた。ただ一つの後悔。


「ごめん。あの時、一人にして」


 母が逝ったあの日、奏多は祥花と共に、学校帰りに母の病室を訪れていた。

 しかし、奏多は本を借りに図書室に向かってしまった。母の容体が急変したのは、それからすぐの事だったのだという。


 奏多は祥花に一人で看取らせてしまった事を、ずっと悔やみ続けている。

 最愛の母の死を、僅か7歳にして一人で看取る事がどれほどの衝撃だったか。考えただけでも身の毛が弥立つ。


「祥花一人に看取らせた。最低な事をした」


 奏多の低い声に、祥花は振り返った。


「奏多、それは違う!」

「違わない」

「…まさか、ずっとそれを抱えて…」


 奏多は祥花から目を逸らす。祥花はそれを是と取った。

 くしゅっと顔を歪める。


「何でそんな…! 奏多が気に病む必要なんてないじゃん!」

「祥花だけが、紅葉を忌まわしく思うようになったのにか」

「それは私の問題だよ! 私が怖いって思っただけ」

「一緒にいたら、祥花のその恐怖も半々だったかもしれない」

「奏多、いい加減に──」


 祥花の言葉が急に途絶えた。祥花は奏多を見ていない。

 奏多は後方を振り返る。そこには、克利の姿があった。


「済まん。サヤ達もやらないかと誘いに来たんだ。皆がお前達を誘えと言うから」

「あ……」

「込み入った話をしていたようだから、声をかけにくくてな」


 頭を掻きながら、克利は苦笑いした。
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