未来ーサキーの見えない明日までも。
「俺が行こう」


 奏多は本を閉じ、後ろポケットにしまった。


「祥花は休んでろ」


 そう言うと、奏多は克利と共に一面紅の中に溶け込んで行った。

 祥花は一人、取り残される。


 まさか、奏多が祥花のこの紅葉嫌いになった経緯を気に病んでいたとは。

 本当に驚きだった。


(ばか……)


 奏多のせいではない。例え奏多があの時傍にいたとしても、こうなっていた。仕方のない事だった。

 変な所で気にする奏多に、祥花は呆れて物が言えない。


 秋になる度、奏多は祥花同様に──もしかすると祥花以上に──苦しむのだろうか。傍を離れた事、祥花に独りで母を看取らせた事を悔やみ続けるのだろうか。


 そう思うと、胸が苦しくなった。

 ただ一人の弟にそんな思いはさせたくない。

 どうする事も出来ず、祥花は小さな溜め息を吐いた。


「サヤ」


 不意に呼ばれ、祥花は俯けていた顔を上げた。

 目の前にはクラスの女子。クラスの中心人物で、並みに可愛い女の子だ。


「何? どしたの?」


 祥花が尋ねると彼女は目を泳がせ、さっきまで奏多が座っていた場所に腰を下ろす。

 祥花は首を傾げながら、上半身を捻って彼女の様子を窺う。

 いつもの彼女らしくないだらんとした背中を見つめ、祥花は怪訝そうな顔をする。


「何かあったの?」


 再び問うと、少ししてから返答があった。


「好きな人がいるんだ、あたし」


 気丈に振る舞うように彼女は言う。


 祥花はすぐに直感した。

 わざわざ祥花に好きな人がいると言ってくる理由は、至極簡単。その“好きな人”は、祥花の近くにいるのだ。


「奏多?」

「……何でそう思うの」

「友達の多い裕香がわざわざ、恋愛経験の乏しい私にそんな事言って来るって、その“好きな人”が私の近くにいるって事でしょ」

「鋭いな、サヤ」


 ははは、と苦笑いをし、彼女は口を閉ざす。
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