未来ーサキーの見えない明日までも。
 祥花は元に戻り、裕香と背を合わせた。裕香は少し安心したように祥花に背を預けて来る。


「いつから好きだったの? 奏多の事」

「勉強も出来て気配り出来る男子ってなかなかいないじゃん。いつの間にか」

「そっか」

「奏多君を好きな子、結構いるんだよ?」

「えっ?! チビなのに?!」

「背はこれから伸びると思うよ。……じゃなくて、背も気にならないくらいの魅力があるって事」

「へぇぇ。奏多がねー…」

「近くにいると見えない事ってたくさんあるんじゃない?」


 何気ない裕香の言葉が、祥花を突き刺した。


 奏多の事を誰よりも知っていると思っていた祥花にとって、その言葉は鋭いナイフに等しかった。


「ねぇ、奏多君って好きな人いる?」

「いない、と思うけど…」

「はっきりしないね?」

「ごめん」

「サヤは奏多君の事、何でも知ってる訳じゃないんだね。意外だなー」


 その事に一番驚いているのは、祥花だった。

 奏多の全てを理解していると自負していたというのに、それは脆くも崩れ去った。


 あまりのショックに祥花は黙り込む。


「訊きたかったのはそれだけ! ありがとね」


 祥花が愛想笑いを浮かべて首を振ると、裕香は手を振って去って行った。


 祥花は嫌いな紅葉に囲まれて拳を強く握る。

 たった一人の弟を理解出来ていない自分に苛立つ。悔しく思う。

 奏多が自分の事を理解してくれているように、自分も理解していると思っていた──。


 思い返せば、奏多が悔いていた事もついさっきまで知らなかった。奏多は祥花の紅葉嫌いに気づいていたというのに。


 奏多は一匹狼な所があるからと自分を宥めて来たが、そうではない。例え奏多が一匹狼だとしても、十四年一緒にいる祥花なら奏多のほぼ全てを理解していてもおかしくはない。


 ──それなのに。


 胸が痛むのを感じた。どうしようもないくらいに切なかった。





 結局この日、言い伝えの紅葉を見つける事が出来た者は一人もいなかったという。





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