未来ｰｻｷｰの見えない明日までも｡

「奏多……？」


　近くにいる気配はない。

　祥花は寂しそうに溜め息を漏らして再び机の上に突っ伏した。そうして写真立てを見つめる。


　目頭が熱くなる。ぼやける視界。

　祥花は唇を噛んだ。


「お母さん…っ」


　震えて掠れた声が、空気中に溶け込んで消えた。


「う……っく、」


　あまり声を上げないようにと気にしてか、小さく零れる嗚咽。

　はらはらと涙の粒が零れ落ちる。


「……っ、ふ」


　優しいようで哀しいピアノの音が、更に涙を誘う。


「ぉ母さ……っ」


　母の顔が、声が、香りが、鮮明に蘇る。今でもまだ祥花の中に色褪せない母がいる。

　笑顔なのに、何故か哀しくて。名前を呼ぶ声が何故か苦しくて。

　言い表せない哀愁を帯びた。


「どーりで毎年泣かない訳だ」


　ぽんと頭を撫でられ、祥花の涙が止まる。


　奏多は隣の椅子を引いて腰を下ろす。


「墓参り行っても泣かねーからずっと不思議だったんだよ。何で泣かねーんだって」

「奏多……」

「一人で泣いてたんだな、毎年」


　ぽろ、ぽろ、と祥花の目から再び涙の粒が落ちた。

　奏多はそれを拭ってやる。


「一人で泣くな。一人で抱えるな。何の為に俺がいる。俺はそんなに頼りないのか」


　怒りの中にほんの少し寂しさが混ざっているのを感じ取った祥花は、首を大きく横に振った。


「違う。そんなんじゃない」

「じゃあ何だ」

「私だけが泣くなんてズルいじゃん。みんな泣かないで毎日頑張ってるのに……私だけ泣くなんてズルいじゃん」


　唇を強く噛んで泣くのを終わろうと努力するが、なかなか涙は止まらない。


「馬鹿言え。泣きたくもないのに泣けるか」


　奏多はティッシュを祥花の顔に押しつけ、腕と足を組む。

　体格は小さいのにそんな偉そうな態度が似合うところは非常に奏多らしい。