未来ーサキーの見えない明日までも。
「俺も何かあったら頼るようにする。だから、お前も何かあったら頼れ。俺でも父さんでもいい。一人で抱えるな」

「……っ」

「いいな、約束だぞ」

「うん」


 祥花は小さく頷いた。


「ほら、食え。腹減ったろ」


 奏多の勧めに、祥花は乗じた。

 ラップを外してサンドイッチを一口食べる。レタスと卵サラダのサンドイッチは、胡椒が利いていてとても…。


「おいしい」


 濡れて強張った顔が、ふわりと緩んで笑顔になった。

 奏多はほっと一息吐く。


 祥花には笑顔が似合う。母に似て、周囲を和ませる笑みだ。

 姉バカと言われても構わない。事実、奏多にとって一番大切な女性は母を除いて祥花一人だ。


 おいしい、おいしいと何度も繰り返しながらサンドイッチを頬張る祥花に、奏多は口許を緩めた。

 祥花がこうして笑っている時、奏多は温かな幸せを感じる。


 祥花が食事を終えた頃、祥多はやっとピアノ室から出て来た。

 長時間引き続けた為に凝った肩や指をほぐしながらリビングに入って来る。


「おはよう、サヤ、奏多」

「おはよー。……もうそんな時間じゃないけどね」

「ははっ。サヤ、毛布羽織ってどうした?」

「ここで転た寝しちゃった」

「そうか。準備は出来てるのか?」


 奏多は出来ているようで慌てる様子はないが、祥花は首を振って階段目がけて猛ダッシュ。

 祥多は苦笑して肩を回す。


「良い匂いがするな」


 くんくんと辺りの匂いを嗅いでいると、奏多が冷蔵庫からタッパーを出して来た。

 中には粉砂糖がふんだんに振るわれた、おいしそうなガトーショコラ。


「今年も花音は大喜びだな」

「父さんの中の母さんって子どもっぽいよな」

「中3で成長が止まったまんまだ」


 さほど問題ではないという風に断言する祥多。奏多は沈黙し、聞かなかったフリをしてタッパーを風呂敷に包む。
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