未来ーサキーの見えない明日までも。
「ま、若いって事で。というかもう歳取らないからなー。羨ましいよなぁ」


 テーブルの上の写真を取って豪快に笑う。


「花音は30のままで、俺はもう37だぞ? 同い年から歳の差夫婦になっちまったなー」


 いろいろと突っ込み所はあるが、敢えて突っ込まないでおく。


 明るく冗談を言っているが、それは祥多の精一杯の強がりである事を、奏多は知っていた。


「俺も歳取るのはもうご免だわ」


 ぽつりと祥多は呟く。


「……けど、サヤが嫁に行って奏多が婿に行くまでは歳取らなきゃな」

「婿に行かせて良いのか。長男を」

「ナイス突っ込みだ、奏多」


 グッと親指を立ててオーケーサインを出すお茶目な中年親父を横目に、奏多は風呂敷に包まれたガトーショコラと祥花が眠っている間に買って来た菊の花を持つ。

 あとは祥花が来るのを待つだけだ。


 リビングから出て玄関に向かう。


「ごめん、遅くなった?!」


 祥花が焦りながら突進して来る。

 奏多が口を開く前に、祥多が言った。


「そんな慌てなくて大丈夫だ。墓に足は生えてないからな」

「いやいや、生えてたら怖いからっ」


 祥多の言葉に突っ込みを入れるのは、どうやら祥花も同じらしい。


「だろ? だから大丈夫だ」

「はいはい。ありがと、お父さん」


 にっこりと祥花は笑った。

 奏多は一足先に玄関を出る。車庫に停めてある車に乗り込み、のんびり屋の二人を待った。


 間もなくして二人は車に乗り込んで来る。

 運転席には当然、祥多。後部席の右に奏多、左に祥花。いつの間にか座席が決まっていた。

 空いている助手席には、花音が乗っていた。その名残があってか、祥花も奏多も助手席には乗ろうとはしない。

 そして祥多の方も助手席に誰かを乗せようとはしない。


 時枝家の皆はいつも知らぬ内に、母の面影を追っていた。





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