未来ーサキーの見えない明日までも。
時枝の墓前に菊を手向け、ガトーショコラを供え、線香を上げる。
手を合わせ、それぞれの思いを花音に伝える。
(二人とも大きくなったろ。そっちは寂しくないか? つらい事はないか?)
祥多は花音に問いかける。
天国と呼ばれる場所へ行ったのなら、つらい事はないだろうと思いながらもついついそう尋ねてしまう。
祥多の相変わらずの心配性は拍車がかかったよう。
(お母さん言ってたよね? 私とコイバナがしたいって。遅くなったけど、私、素敵な恋をしたんだよ)
結果的に両想いだったけれど、恋人になれずに幕を閉じた祥花の初恋。
恩師である里田に恋した事に悔いはない。いつか思い出した時、改めて良かったと思えるだろう。
祥花は口許を綻ばせた。
(久し振りに祥花が頼って来た。小さいけど、確かな一歩だよな。母さん)
里田の一件から、祥花と真正面から向き合えた奏多。
それは奏多にとって大きな変化だった。
「あっ! 車に忘れ物した!」
手を合わせ終えた祥花が、急に立ち上がって声を上げた。
「何忘れたんだ?」
隣で手を合わせていた祥多が祥花に問う。
「お母さんのお気に入りの香水! せっかく持って来たのにー」
祥花は自身に呆れたように脱力し、それから奏多に抱きつく。
「奏多っ! 一緒に取りに行こ?」
「面倒臭い」
「一緒に行こーよー。駐車場までちょっと遠いでしょー」
ガクンガクンと肩を揺らしながら駄々をこねる祥花に折れ、奏多は重い腰を上げた。
そんな二人の姿を微笑ましく見つめる祥多。
「じゃ、お父さん。ちょっと取りに行って来るね」
「気をつけろよ」
パーキングエリアに行くには道路に出る為、祥多は二人の身を案じながら車の鍵を渡す。
それを笑顔で受け取った祥花は、奏多を伴って歩き出した。
「しっかり周りを確認しろ」
「分かってますー!」
「分かってないから言ってるんだ」
迷惑にも騒ぎながら遠ざかって行く二人の姿を見送り、祥多は胸ポケットから束のハガキを抜き取る。