未来ーサキーの見えない明日までも。
 十通を超えるそれは、年賀状や近況を報せるハガキ。祥多は墓前に手向ける。

 それらは、かつて中学校の音楽教師だった花音に宛てられたもの。

 教え子達が今でもこうして、今は亡き花音宛にハガキや手紙を送って来る。


「よっぽど良い先生やってたんだな、お前」


 送られて来るハガキとの手紙の量や内容から、その事が充分に伝わる。

 感謝の言葉や思い出が綴られたそのハガキや手紙は祥多にとっても宝物。それらは花音の遺したもう一つの足跡。


「いろんな人から愛されたお前は幸せ者だな」


 30歳の花音が泣きそうになりながら必死に頷く姿が目に浮かぶ。

 ジーンズのポケットから愛用の煙草を一本取り出して火をつけた。本当にたまにしか吸わないそれを大いに吸い込む。

 やりきれない時、祥多はいつも独り煙草。


「あー…この歳になって何で泣けるんだろーなぁ」


 煙草の先から立ち上る煙がやけに白く目に映る。


 音もなく静かにつぅっと流れていく涙。祥多は拭おうとはしない。

 拭ってもどうせ、涙は流れて来るのだ。


「情けねーなぁ。子ども達が泣かずに頑張ってんのに、俺だけ反則だよな」


 震える手で煙草を吸い、震えた唇から煙が逃げるかのように飛び出す。


「お前がいねーと物足りねぇよ。何でみんな立ち直れる…」


 愚痴にも悲しみにも似た言葉は、煙と共に風に身を隠す。

 立ち直ろうと努力して今を乗りきっているが、花音を失った悲しみや虚しさはどう足掻いても消えず、この先もまだ少し消えないような気がした。















「おい、車に忘れ物を取りに行くんじゃなかったのか」


 秋晴れの空の下、奏多は祥花の後を追いながら木陰に入る。すると祥花が呆れたような顔をして溜め息を吐いた。


「私の涙には敏感なのに、お父さんの涙には鈍感なの?」


 祥花の言っている意味が分からず、奏多は首を傾げる。
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