未来ーサキーの見えない明日までも。
「しずかはどーせ参加しないんでしょ」


 始めて知り合った中一の頃も既に彼氏という者がいたしずかだ。あれから、同じ人ではなくとも必ず彼氏がいた。

 クリスマスイヴのボーリングなど、しずかには縁のない行事。


「するよ。だから訊いたの」

「……え?!」


 これには美月もびっくりだった。


「なぁにー。私にだって独り身の時期はありますーっ」


 可愛らしく口を尖らせ、美月が真意を問う前にしずかは言う。

 美月は唖然としたまま隣のしずかを見つめる。


「浮気されて、先週別れたの。可愛いだけでつまんないって言われちゃった。ひどいよねー、あっちから告って来たくせに」


 しずかは苦笑いと愚痴を同時に零す。

 美月にはそれが精一杯の強がりだと分かり、少しばかり同情した。


 しずかは学校で頂点を競い合うほどの容姿の持ち主であるからか、表面上で言い寄って来る輩が多い。

 それを甘んじて受けるしずかもしずかだが、今回ばかりは可哀想だった。


「小学生以来、初めての独り身クリスマスだわー」


 しずかは冗談混じりに口にして、高校前のバス停の一つ前でブザーを鳴らす。


「私、ちょっとコンビニでお菓子買ってから学校行くねー」


 じゃね、と手を振りながら降りて行くしずか。気づけば美月も一緒に下車していた。

 しずかばかりか、当の美月ですら驚いている。


「みっちゃん? どしたの」

「──っ。分かんないよ、そんなの!」

「えぇー。逆ギレですか」


 若干困ったような顔をしているしずかを残し、美月はコンビニの方へ歩き出す。

 しずかは慌てて美月を追った。


「みっちゃん?」

「煩いな。付き合ってあげるからさっさと行くよ!」


 ほんの少し顔を赤らめて先を行く美月の後を、しずかは嬉しそうに笑いながら追って行った。















 事前に克利と約束していた小さな本屋の文庫本コーナーに、美月は向かう。

 店内は学校帰りの学生や、年配の男性女性、初老の男性がいるくらいで静かだ。
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