未来ーサキーの見えない明日までも。
 皆が殆ど購入はせず立ち読みして帰る為、その日の売り上げは僅かだろう。

 昔から馴染みのあるこの本屋の行く末が心配になる。


 落ち着いた雰囲気の漂う店内を歩き、推理小説をパラパラと捲っている克利の姿を見つけた。


「克利」

「美月姉」

「ごめん、遅くなって」

「大丈夫」


 爽やかに笑う克利に、美月も思わず笑みが零れる。


「何読んでたの?」

「別に。適当に手に取って見てただけ」

「だよね。克利が読書してるとこってあんまり見ないし」

「苦手だから」

「そうそう、奏多は読書好きで克利は読書嫌い。よく付き合えてるよね」

「好みだけじゃないだろ? 人付き合いって」

「そうだね」


 理にかなっている言葉に美月は頷く。

 趣味や好みは結構正反対な奏多と克利が付き合えてるのはきっと、物事を見る時の思慮深さが共通しているからだ。

 美月はしみじみとそう思う。


「奏多のプレゼントだけなかなか決まんなくて。奏多って何が欲しいんだろ」

「図書カード」


 克利のあまりの即答に、美月は項垂れる。

 そう、美月がいくら考えてもその答えにしか辿り着かない。


「私、人にプレゼントする物は絶対に一生大切にしてもらえたりする物って決めてるの!」


 特に奏多へは──という言葉を飲み込み、克利に訴える。嘘は言っていない。


 困った表情を浮かべる美月に、克利は溜め息をつく。

 何て分かりやすい人何だろうとつくづく思う。美月は隠せている気でいるが、実は克利にはバレている。

 何年も付き合っていれば自ずと分かる事。気づいていないのは鈍感な時枝姉弟のみ。

 敢えて気づいていないフリを続けるのは、美月の面子の為。


「──CDなんてどうだ」

「へ?」

「奏多がリストのCDが欲しいと言っていた。多分、まだ買っていないと思う」

「ほんと?!」


 美月が目を輝かせる。
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