未来ーサキーの見えない明日までも。



 美月や克利がCDショップに向かっている頃、奏多はリビングで一人ぼんやりしていた。


 帰宅した祥花はそんな奏多を見て目をしばたたかせる。

 手にはきちんと文庫本が収まっているが、視線は文章を追ってはいない。


(え、何? こんな奏多、見た事ない…)


 リビングの入口で、珍しい光景に硬直化している祥花。

 声をかけるべきか、かけざるべきか。究極に迷っては悩み込む。


(一体何があったんだ)


 深刻な悩みがあるとか、そういう事ではなさそうだ。呆けている理由を探るが、思いつかない。


(あ、もしかしてっ)


 一つの答えに辿り着いた祥花は目を輝かせ、奏多に駆け寄る。


「奏多ぁー!!」

「…祥花…」

「どこの誰?!」

「は?」

「さぁ吐け! 隠すな!」

「はあ? 何だ、いきなり」

「誤魔化そうったってそうはいかないからね! その愁いを帯びた表情……恋でしょ!」

「………、は?」

「ね、どこの誰?! 教えてくれる約束でしょ~!」

「恋って……俺じゃねぇし」

「へ? 奏多が恋してるんじゃないの?」

「当たり前だろ。恋してんのは後は──」


 い、と言う前に奏多は口を覆う。それから顔を逸らし、祥花と目を合わそうとしない。


「何さ」


 中途半端に途切れた奏多の言葉の続きを追及する祥花。奏多は相変わらず、祥花の目から逃れるように目を泳がせている。


「ちょっと奏多!」

「お前には関係ない、あっち行け」

「はいぃ?!」

「煩い。黙れ」

「人が心配して声かけたってのにアンタはそれを無下に扱うわけ…っ」

「小さな親切大きなお世話」


 この言葉に祥花は怒り、傍に置いたカバンを肩にかけて無言でリビングから出て行った。それを確認し、奏多はほっと一息つく。

 危うく口を滑らせるところだった。


 奏多は本を閉じ、額を押さえて更に深い溜め息をつく。

 今更ながら、らしくない事を請け負ってしまった。
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