未来ーサキーの見えない明日までも。
まっすぐ家に帰宅した奏多は、する事もなく読書に耽っていた。
目で文章を追っては一時停止し、前のページへ戻る。また目で文章を追っては一時停止し、前のページへ戻る。
もうずっと同じ事を繰り返していた。
二人のその後の事が気になり、読書に集中出来ないのだ。そのせいで何度も何度も同じページを読む羽目になっている。
あれからどのくらい経っただろうと時計に目をやる。帰宅してからやがて一時間半を回る。
落ち着かず、とうとう本を閉じた。くるくると室内を歩き回る。
少し様子を見に行こうかとも思った。しかし、覗き見のような真似は意に反する。
何故こんなにも気になっているのか、その理由すらきちんと分かっていない中で奏多はひたすら迷い続ける。
すると玄関の方から鍵の開く音と共に、祥花の高らかな声がリビングまで届いた。
奏多は逸る心を抑え、平然を装ってソファーに深く身を沈め、あたかも先ほどから読んでいたかのように本を開く。
「ただーいま」
リビングに入って来た祥花に目もくれず、奏多は言う。
「おかえり」
祥花は羽織っていたコートを脱いで腕にかける。そこでやっと奏多は顔を上げた。
そうして出かけとは異なる点を見つける。
「そのネックレス…」
「原君からのクリスマスプレゼント。どうしてもって言われちゃって」
苦笑いを零しながら、祥花は上にに結わえていた髪を下ろした。
小さな十字架を通したシルバーのネックレスは祥花によく似合っている。
「にしても原君、奏多が大好きなんだねー。ずっと奏多の話を聞かされたよ」
コートを椅子にかけ、祥花は椅子に腰かける。
告白されてから先ほど家の前で別れるまで、原の口から零れ出るのは奏多の事ばかり。
まるで祥花より奏多の方に気があるのではないかと思うほど、原は奏多の事をよく知っていた。
「私に告白して来たのって、奏多の気を引く為の策略だったりして」