未来ーサキーの見えない明日までも。
 笑いながら話す祥花を、奏多は睨みつける。


「な、何さ」


 睨みつけられた祥花は怯んで笑いを引っ込める。

 奏多は小さな舌打ちを零してリビングを出て行った。


 祥花は奏多がよく分からず、首を傾げる。

 自分がいなかった間に何かあったのだろうか。それとも、冗談が通じなかったのだろうか。ふぅっと溜め息をついて机に突っ伏した。





 奏多は部屋に入ってベッドに座り込んでいた。

 祥花が嬉しそうにネックレスをしていたり、原の話をしているのが気に障った。

 何故こんなにも苛立っているのか。それが奏多自身も分からない。


「奏多」


 ドアの向こうで祥花の声がする。自室であるのに入って来ないのは、気遣っての事だろう。


「さっきはごめん。悪気はなかったんだけど」


 これが精一杯というように謝って来る祥花に、先ほどまでの怒りは薄れていた。


「お父さんが家の前で待ち合わせようって」


 今日は父、祥多の提案で珍しく外食だ。前から約束していた。

 奏多は重い腰を上げ、ドアを開けた。心配そうな祥花が目の前に立っている。

 奏多は溜め息をつき、コートを羽織ってドアを閉める。


「早く行くぞ」


 奏多の言葉に頷き、奏多の後ろにつく祥花。そんな祥花をちらりと盗み見る。

 すると、祥花は胸元のネックレスを気にしながら歩いていた。

 また苛立つ奏多。ザワザワと騒いで落ち着かない心。


(何でこんなイラついてんだ、俺)


 自分自身に苛立つ訳を問うも当然ながら答えは返って来ない。

 その事に更に苛立ちながら階段を降りていると、ある事に思い当たって立ち止まった。「わっ」と声を上げ、奏多にぶつかりそうなのをギリギリ防ぐ祥花。


「奏多?」


 祥花の声は奏多には届かなかった。奏多の脳内は今、ある一つの仮定に支配されている。


(祥花が原の話をするのも、贈られたネックレスをしてる姿にも苛つく……まさか、)


 これが『恋』だとは言うまい。
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