未来ーサキーの見えない明日までも。
 奏多の脳内はひどく混乱し始めた。

 好きな人が異性と話をしていたりすると無性に苛立つとよく聞く。好きな人が自分以外の異性といるところを見るのは気分が悪くなる、と。

 まさか自分は祥花に恋していると言うのだろうか──。


(そんな道徳に反する事、認めたくも考えたくもない)


 祥花は実の姉だ。しかも双子の。

 これではまるで、俗に言う近親相姦。ヒトが犯してはならない領域。


 目の前が真っ暗になる思いで奏多は階段に座り込んだ。

 頭がフラフラしていて、考える事が嫌になる。


「ちょ、奏多?! どうしたの!」


 祥花が慌てて奏多の前に出る。


「気分悪いの?!」


 ──だから、あんなに冷たくあしらったんだ。


「ね、奏多! 聞こえてる?!」


 ──だから、あんなにイラついたんだ。


「奏多ってば!」


 ──だから、こんなに…。


「玄関行ってお父さん呼んで来る!!……っ、奏多?」


 どんな表情も、声も、姿も、愛しく感じていたんだ。


 自分でも無意識の内に奏多は祥花の手を掴んでいた。そのせいで祥花は身動き出来ないでいる。


「平気」


 そう言いながら奏多は顔を上げる。


 ──目の前にいたのは、一人の“少女”だった。


 奏多の目にはもう、祥花は姉として映ってはいなかった。そうして奏多は自覚する。

 いつの間にか祥花に恋をしていたのだと。


「奏多…?」


 一方、祥花は妙に焦る。奏多が奏多ではないような気がしてならない。

 どこか遠くにいるような、そんな気がして落ち着かない。


「奏多っ」


 祥花が半ば乱暴に手を振り払うと、奏多は我に返ったように祥花を見た。

 驚きと、ほんの少しの悲しさに満ちた瞳が祥花を揺さぶる。


「どう、したの」


 うまく回らない舌で奏多を気遣う祥花に、奏多は「いや」と答えて立ち上がった。

 祥花を擦り抜けて一人、玄関へ向かう。

 未だに信じたくはない。受け入れたくはない。けれど、どうする事も出来ない。


 奏多は強く唇を噛み締め、ドアを開けた。





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