未来ーサキーの見えない明日までも。
「ちょっと奏多!」
突然腕を取られ、耳許でした祥花の声に奏多は我に返った。
辺りは人で埋め尽くされ、息苦しさが今頃になって込み上げる。
「こんな場所でぼーっとしないでよ! はぐれちゃうじゃん!」
「こんな場所…?」
そう言われてから、思い出す。今日は一月一日。元旦だ。
朝から初詣に出かけ、未だに参拝出来ずにいる。元旦に初詣は絶対に嫌だと言ったのを、祥花は聞く耳持たずに連れ出した。
祥多は昨夜、仕事の付き合いで出かけ、今朝がた酔いながら帰宅した為に留守番だ。
例年とは違い、今年の初詣は姉弟二人きり。
「……気持ち悪……」
奏多は口許を押さえ、眉間にしわを寄せる。
「大丈夫?! ごめん、無理矢理連れ出して」
「いや……それはもう…いい」
しゃべるのも一苦労。奏多はとうとう口を閉ざす。
祥花はどうしたものかとおろおろし始め、奏多は吐き気を懸命に抑える。
「あ、ほら! 私達の番!」
祥花は賽銭を境内に投げ入れ、柏手を鳴らして手を合わせる。
(去年はありがとうございました! 今年もよろしくお願いします! えぇと、高校合格しますようにっ)
懸命にお願いをしている祥花の隣で奏多も賽銭を投げて柏手を鳴らす。
(祥花に変な虫がつかない事のみ頼んます)
去年の礼もろくにせず敬意も顕さず、奏多は願う。
余韻に浸る暇もなく、参拝客の列から外れた二人はお守り売り場の方へ流れた。
そのまま流れに従えば、おみくじの方まで行ける。それを確認して二人はそのまま流される。
「何お願いしたの?」
祥花が何気なく訊くと、奏多はじっと祥花を見つめ、それから視線を逸らした。
「教えない」
「私教えるから!」
「……何て願ったんだ?」
「高校合格しますようにって」
「──あ、そういや人に教えると叶わないらしいな?」
「………えっ?」