未来ーサキーの見えない明日までも。
 はたと祥花の動きが止まる。真剣に過去を振り返り始める祥花に奏多は吹き出す。

 どうしてこうも素直なんだろうか。


 自分の素直さまで全て祥花に持って行かれたのだと思うほど、祥花は人に素直だ。そこが祥花の良いところであり、悪いところでもある。

 素直すぎて傷つくのは祥花自身。素直すぎるのは薬にもなり毒にもなる。

 出来るならそのまま素直さを持ち続けて欲しい。例え人に裏切られる事、傷つけられる事があったとしてもずっと。


「あ! サヤ~!」


 女子の声がしたと思えば、祥花と奏多はすぐさま男女に囲まれた。


「ぅわ、みんな?!」


 祥花が驚きの声を上げる。


「あけおめー!」

「二人一緒に初詣ってほんと仲良いよねーっ」


 男子や女子が口々に騒ぐ。


 祥花は笑っているが、奏多はうんざりした表情でさり気なく祥花の後ろに回る。


「奏多君の私服って初めて見たかも! かっこいいね!」

「…………」


 どう答えれば良いのか分からない奏多は無言で返す。

 そんな奏多を後ろ目に祥花は苦笑い。


 タイミングが悪いなぁと思いながらクラスメートの言葉を受け流す。


「この後ボーリング行くんだけどさ、サヤ達も行かね?」

「あー、ごめん。お父さんが一人寂しく留守番してるから帰んなきゃ」


 祥花が笑いながら断ると、皆は残念そうな顔をする。


「サヤがいないとつまんなぁい」

「だなー。後からでも来ねー?」


 引き下がろうとしないクラスメート。背後から奏多の苛立ちを察知し、さすがに困り始めた祥花。


「ほんとごめん! また今度、ね?」

「ちぇー」

「あ、そろそろ予約の時間!」

「早く行こーぜ」


 解放の兆しが見え、祥花は一息つく。それは奏多も同じようだった。


「じゃあまた三学期に!」

「バイバーイ」

「うん、楽しんで来てねー!」


 騒がしいクラスメート達を見送り、祥花は肩を撫で下ろす。ちらりと奏多を見やれば、そそくさと歩き出した。
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