未来ーサキーの見えない明日までも。
「待ってよ奏多!」

「待たない」


 距離を縮める祥花を遠ざけるように奏多は足を速める。

 祥花は負けじと駆け足で奏多を追った。


「嫌になんないでよ、クラスの事」

「何を今更」

「みんな悪気があるわけじゃないし、ああいう性分なだけで個性が強すぎるだけで」

「誰も責めてないだろ。嫌だとも」

「顔に書いてあるよ」


 祥花の言葉は奏多の心情を綺麗に見抜いていての言葉で、奏多は押し黙った。反論するのに疲れた、と言っても悪くはない。

 速足で歩くのをやめ、祥花に合わせる奏多はコートのポケットの中にあるお守りをぎゅっと握り締めた。

 まるでカイロのように心が温まる。

 祥花はカバンにしまおうともせずに赤のお守りを大事に胸に抱え持っていた。そんな姿を見て嬉しくなる奏多。

 自分のあげた物を喜び大切にしてもらえるのは嬉しい。奏多は口許が緩むのを抑える事が出来なかった。


「あ! 奏多が笑ってるっ」

「笑ってねーよ」

「嘘、笑ってたよ!」

「笑ってねーって」

「笑った!」

「笑ってねー」


 バカみたいな言い合いをしながら、二人は家に向かって歩いていた。


 家では祥多がへろへろになりながらも、奏多が拵えたおせち料理を前に待っているだろう。


「はっ! 冬休みの宿題!」


 祥花が突然声を上げては青ざめる。

 どうやらその存在をすっかり忘れていたようだ。


「そのまま忘れとけば幸せだったろうに」

「あ~~! すっかりさっぱり忘れてたあぁぁっ!」

「もーいっぺん忘れとけ。楽だぞ」

「ひど! ね、手伝っ」

「断る」

「最後まで言わせてよ、せめて!」

「自分でやれ。自業自得だ」

「ゔぅー」


 冷え込んで来たなと思えば、ちらつく粉雪。ふわりふわりと二人に降り注ぐ。


 奏多に大きな変化をもたらし、冬は白い名残を残して春へとバトンタッチ。

 新しく始まるであろう新生活が、もう目の前までやって迫って来ていた。

 それが華やかになるか否かは、個々の努力と運次第。


 六花は桜の花びらへと形を変える──。





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