未来ーサキーの見えない明日までも。
「今日もまた一段と元気だな、サヤ」


 残った双子の片割れに、克利は話しかける。

 奏多はリュックの中の文庫本を取り出し、栞の挟んであるページを開く。


「ただの虚勢だろ」


 学ランの胸ポケットに入れてあった眼鏡をかけながら、奏多は克利に言った。


 克利は小さく笑う。


「よく分かってるじゃないか、サヤの事」

「十四年も付き合えばな」

「空元気ってやつか」

「そんなとこ」


 文章を追うフリをしながら、奏多は教室に入る前の祥花を思い出す。

 突然包み込まれた左手に一瞬伝わった微かな震え。お調子者でいつもクラスのムードメーカーである彼女からは考えられない、不安の表れだった。

 明るく強く見られる彼女だが、人一倍繊細である事を、双子である奏多と父である祥多、今は亡き母の花音だけが知っている。


(強がりな性格、少しは直せって言ってんのに)


 自分の本当の姿を強がりで隠して全てを秘めてしまうその性格が、奏多には疎ましかった。

 まるで、病名も明かさず苦しみすら一人で抱えて逝った母のようだからかもしれない。


「なぁ、奏多」

「何」

「お前はサヤが可愛くないのか?」

「………は?」


 思わず本を落としてしまいそうになった。唐突すぎるその問いに、奏多は怪訝そうに克利を見やる。


「いや、何ていうか……たった二人の姉弟じゃないか。しかも双子の。それなのに、奏多はサヤにすら冷たいところがあるだろ」

「あぁ」


 要するに、双子の姉弟であるのに、他の者だけでなく祥花にすら冷たくあしらうところがある事に、克利は疑問を抱いているのだ。


 正直、自分でもよく分からないというのが奏多の言い分。

 祥花が嫌いな訳ではない。他人とは違って姉弟である上に、共に育って来た。それなりの情は持ち合わせている。

 けれど、あまり優しく姉弟らしく接してやる事が出来ないのは、彼女の性格が疎んずるに値するからだろう。


 祥花は母の死以来、誰かに涙を見せた事がない。その上、何かあっても一人で解決する。どんな時でも笑って、誰かに頼ろうとしない祥花が気に入らない。
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