未来ーサキーの見えない明日までも。
“奏多。貴方は男の子だから、祥花より力がある。だから、祥花に何かあった時、助けてあげて。守ってあげてね”


 母の言葉を思い出す。繰り返し繰り返し、何度も奏多にそう諭した花音の優しい声。

 そんな言葉を守れない苛立ちも相まって、祥花に優しく出来ないのかもしれない。


「俺自身の問題だ」

「そうか。いや、だったらいいんだ。ただ中学に上がってからの奏多は少し、サヤと距離を置くようになったからさ」

「……祥花は目立つから」

「だよな、そんな理由だと思ってたよ。奏多は目立つのが嫌いだもんな」


 ハハハと笑い、克利は自分の席に戻って行った。奏多は小さな溜め息を吐く。


 祥花は常に笑顔で明るく元気な為、学年でも男女問わず人気がある。廊下で擦れ違う度に誰も彼もが祥花に声をかける。


 ──そう、距離を置いたのは目立つのが嫌だからだ。他に理由はない。

 半ば無理やり自分を納得させるように思った。















 始業式やホームルームが終わると、下校時間。今日の日程はこれまで。

 祥花は満面の笑みを浮かべて隣の席を見る。


「帰ろ、奏多」


 一方、声をかけられた奏多は眉間に皺を寄せる。


「部活はどうした」


 奏多の言葉に、祥花の表情が強張る。一瞬の事だったが、奏多はそれを見逃さなかった。


「今日、休み」

「明日の入学式では演奏するのにか」

「…………」

「家で聞く。帰るぞ」


 祥花は笑う事も出来ずに目を泳がせていた。

 席を立とうとしない祥花の腕を引っ張り、無理やり立たせる。すると祥花は観念したように歩き出した。


 いつもならどんな事があっても一人で解決する祥花が、こんな風に笑いも隠しもせずに戸惑っている姿を、奏多は初めて見る。

 友達とケンカした時も、成績が落ちた時も、何となく気分が乗らない時も、笑ってどうにかしていた祥花。


 彼女に一体何があったのか──奏多は久し振りに、言い知れぬ不安に駆られた。





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