あさやけ陰陽師
いざ、六根清浄。あさやけ陰陽師
心中大荒れ大津波
『あさやけ陰陽師』
今は昔。京都には悪鬼悪霊がはびこり、人々はたいそう困っていた…
「まるで日本昔ばなしのような切り出し方ですな」
「なににつっこんでるんですー?阿国様」
阿国様、そう呼ばれたのは狩衣に立烏帽子をかぶった出で立ちで、最近宮中などでも名を聞くようになった陰陽師の伏見阿国であった。
「するどいですな、春鳶」
春鳶と呼ばれた愛らしく目のくりくりした娘は陰陽師、阿国の式神である。
「あっ…そういえば…!阿国様に用事があるって安倍晴明様がいってましたよ!」
安倍晴明か…と阿国はおもった。
切れ長の目に薄く形のいい唇。白く透き通った肌。容姿は誰もが認める色男。…なのだが、いかんせん性格に少し難があるような……
すべてを見透かしたような目も虚仮にする物言いをする唇を阿国は苦手だった
「仕方ない、晴明殿のところにいくとするかな」
渋々、といった様子で阿国は重たい腰をあげた
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「おや…阿国殿。阿国殿を動かせてしまうとはこれはこれは申し訳ない」
まったく悪びれた様子もなく申し訳ない、と言った晴明は目を細め、微笑んだ。
「用…とはいったいなんでしょう」
そう晴明にきくと晴明は先ほどよりも笑みを濃くした。
「用というほどでもないのですが、いま
宮中で女官などが腐るほど死んでいるのをごぞんじかな?」
「ええ、それは存じております」
自分も陰陽師のはたくれである。陰陽師なのだから助けてくれ、どうにかしてくれと女官達からも、春鳶からも聞いていた。
「それで、ですよ」
晴明がクツクツと喉の奥で笑った。
「阿国殿はどうされるおつもりだ?」
どうするもなにも生きたものの仕業でないのなら退治するしかない。
生霊の類は苦手である。その時は晴明におしつけよう。そう頭の片隅でおもった。
「私としては阿国殿に退治してほしいのです。阿国殿は力がおありですから簡単でしょう?ですから、よろしく頼みましたよ」
出鼻をくじかれた。晴明は自分に最初から最後までおしつけるつもりだ。
晴明は薄く笑みを浮かべた後、ゆったりとした所作で立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
「困りましたな…」
阿国はため息を漏らした。
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「阿国さまぁ」
部屋中から黄色い声があがる。
阿国が晴明の部屋からでて自分の部屋に戻ろうとしていると数人の女官達にばったり出くわし、そのまま近くの部屋に連れ込まれてしまった。
「阿国様」
綺麗に着飾った女官達が酒やら何やらをすすめてくる。
「こ、こまりましたなぁ…」
今日1日で何回困ったと言っただろうか。まるでこれじゃあツンデレヒロインに迫られてまんざらでもないがとりあえず困ったと言っているだけのラノベの主人公みたいじゃないか。
「阿国さま…」
めんどくさそうな女官が猫なで声で話しかけてくる。
顔には出さないが阿国もそろそろ煩わしくなってきた。
その時だった
「阿国殿!」
女性の声とは違い、太く低い男の声に呼ばれる。
「ここにおられましたか!阿国殿!!さがしましたぞ!」
まるで犬っころのように尻尾をぶんぶん振っているのがみえそうなくらいに明るく嬉しそうな声色のこの男は在平道真。
この男は元服してから十数年たっている。はっきり言ってもういいおやじである。よくもまあ、そんなに愛らしい笑顔ができるものだ。
「ああ、道真殿」
名前を呼ぶないなや嬉しそうにこちらに近寄ってくる道真をみて、めんどくさいのが来てしまったとおもったが道真はドシドシとこちらに近寄ってくるとぐいっと阿国の腕をひいて立ち上がらせた。
「なにを……」
困惑している阿国を尻目に道真は阿国を連れてどこかへ行こうとする
「阿国様をどこに連れていくの!」
女官のひとりが声を荒げる
「阿国殿は声を荒げる下品な女とは一緒いさせるわけにはいかん」
道真はそれだけいうと阿国をつれて歩きはじめた。
「どこにつれていくのだ」
そろそろ腕が痛い。
そう言おうとして口をまたひらこうとした時だった。
道真が阿国の腕をパッと離して阿国のほうに振り返った
「阿国殿…」
なぜそんな顔をしているんだ……。しょんぼりと悲しそうな顔をしている。
「な、なにがあったのです…?やっかみごとでもあったのですか?」
(いちおう)心配して声をかけてみる。
すると
「近頃まったく逢えなくて寂しかったんですよ……今日も安倍晴明殿は呼んだら来てくださったといっていたのに私は探して探して探しまくってやっとのおもいで逢えたのですよ……すごく寂しかったです」
そう言って寂しそうにはにかんだ後、阿国をゆっくりと抱きしめた。
「(!!??!?)」
この男は男色なのか、と阿国は混乱した。
「阿国殿は女のようないい香りがしますね……」
こいつはとんでもねえ助平だな……と思う阿国をよそに、この助平野郎の魔の手はどんどん加速する。
「それにしても阿国殿は男にしてはしなやかでやわらかいですな、まるで女のようですな、ハハ」
道真は清々しいくらいの笑顔をむけてくるが、阿国は心中荒れていた。