僕と、君と、鉄屑と。
 パーティの夜、僕は直輝を後部座席に乗せて、ヘアサロンへ麗子を迎えに行った。サロンには、麗子がヘアセットを終えて、紅茶を飲みながら、僕達を、いや、野間直輝を、待っていた。
「おっそ」
嬉しそうに笑う麗子は、黒いホルターネックのドレスで、僕達の前に立ち、くるり、と回って見せた。
「どう? 似合う?」
それは、明らかに、僕ではなく、後ろに立つ、『恋人』に言った。直輝は、麗子をじっと見て、微笑んで、
「綺麗だよ」
と言い、行こうか、と麗子の手を取り、二人は腕を組んで、僕の前を通り過ぎた。僕のことを、少しも見ることなく、直輝は、笑いながら、麗子と言葉を交わしながら、僕の前を、通り過ぎた。
「村井、何してるんだ」
立ちすくむ僕に、ドアから、直輝が言った。
「はい、ただいま」
 ハンドルを握る手が、震えている。後部座席では、二人が楽しそうに言葉を交わしている。まるで……恋人同士のように……僕には、許されない。僕には、できない。本当の恋人の僕には、許されないのに、たった、半年前に、一度会っただけの女が、金で買っただけの薄汚い女が、まるで、本当の恋人同士のように、楽しそうに、笑っている。

 パーティの間も、ずっと麗子は直輝の隣にいて、直輝は麗子を恋人だと、紹介した。きっと、誰も疑わない。誰が見ても、直輝と麗子は、恋人同士だった。
 告白すると、僕は、わざと、下品な女を選んでいた。野間直輝の妻になど、到底なれないような、最低な、下品な女を選んでいた。そうすることで、僕は任務を果たしながら、直輝を独占することに、成功していた。佐伯麗子を選んだのも、そんな理由だった。残念ながら、優秀な僕は、やっと、そのミッションに成功してしまった。
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