【短編】七夕奇譚
「地下1F」
「…………すみませんっ……ホンット、すみません、センパイッ!」
もう数えるのも面倒なほど続いている、後輩の謝罪の言葉。廊下に響き渡る無駄に高い声に、私は、いい加減うんざりしていた。
「サキ……もう分かったから。今何時だと思ってんの?」
だから、ゆっくりと、冷静な声で、突き放すように言ってやった。その発生源を黙らせる為に。
「……………すみません……。」
…まだ言うか。でも、声が小さくなっただけでも良しとしよう。
チラと見たアナログの腕時計の針は、40分前に午前12時を過ぎている。本来ならば、もう寮の部屋でベッドに倒れ込んでいてもおかしくない頃合いなのに────。
今から30分ほど前、引き継ぎを終え、ロッカーで着替えていた私の元へ、今日の当直の相棒だった丸岡早紀(まるおかさき)が血相を変えて飛び込んできた。
「ま、正木(まさき)センパイっ…………!」
今年4月からの新米。おっちょこちょいな性格で、3つ用事を頼めば必ず1つはミスをする、と看護師の間で言われているコだった。今回もそのクチかと思ったのだったが………。
「た、田町(たまち)さんが、い、居ないんです…………!」
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