今宵、月が愛でる物語
…………うそ。

突然抱きしめられて早鐘を打つ心臓は飛び出そうなくらい驚いている。

私を包み込むその身体は記憶にある子供の頃の奏一とはまるで違い、大きさも厚みも安定感も…思いのほか『男』としての成長を感じさせる。

「美文…。

美文…。

なぁ、美文……。」


切なく、苦しく、絞り出すような声。


「俺を見ろよ、男として。」


……今、何て。

「え……?」

「お前ずっとずっと、駿さんしか見てなかったろ。

その間ずっとずっと、俺はお前を待ってた。」

その言葉は私の心に入り込んで深く揺さぶる。

「…俺がこうして会いに来て、お前が俺のことを話したのは初めてだよ。」


『お月様みたい』


『気づくといつも近くにいる』


「あ……。」

そう言われるとそうだ。

私はいつも自分のことばかりで…

「気づいてなかったろ?

だから触れなかった。

我慢した。

いつか一瞬でも俺を見るまでは…って。

だけど……っ!」

その腕に一層力がこもる。

「そう……っ!」

「もう限界。

お前やっと、一瞬…ほんの一瞬俺を見てくれたから。

……13年分の気持ち、伝えないわけにいかない。」



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