今宵、月が愛でる物語
状況が変わったのは2年の春休みだった。

「先生、あの公園知らないの?」

いつものように頼み込んで個人授業を受ける中、ふと町はずれにある公園の話になった。

「俺は地元民じゃないからな。」

私のノートと向かい合い添削するその表情はいつもと変わらずで。

「そっか。高台から街を見下ろせるし、星も月もキレイに見える静かなトコだよ。

……夏は花火大会も見えるデートスポットだし。」

「…そうか。さ、おしまいだな。」

先生は最後のマルをつけた赤ペンを片付けさっさとテキストをまとめた。

先生はきっと私の気持ちを察してる。


一緒に……行きたいって気持ちを。


察していてかわした。


その瞬間、決めた。


これを最後のチャンスにすることを。


『腹をくくる』ってきっとこういうことなのかな。



それは、人生で一番ドキドキする決断だった。



< 111 / 136 >

この作品をシェア

pagetop