今宵、月が愛でる物語
重苦しい沈黙が流れる。

それから私の言葉を聞いていた大きな背中は、濃いため息を一つ吐いた。

観念したようにこちらを向く彼を胸がはりさける想いで見つめていると、その表情は今まで見たことがない穏やかさを浮かべていた。

その表情に一際大きく胸が鳴ったことは言うまでもない。

「せ…んせ……。」

持っていたテキストを机に置き、間近で私に向かい合う先生に胸が鳴って仕方がない。

恋心に支配されて固まってしまった私に、先生は………

ドラマでしか聞いたことがない甘いトーンの声でこう言った。


「…負けたよ、来栖美妃。お前のそのまっすぐさに、俺もやられたよ。」


耳から胸に届く言葉にもうドキドキはどうにもならなくて。

「…じゃ、あ………。」


その先を、期待してしまった。


「でもな。」


私の言葉を遮り、歪ませた眉で先生は続ける。

「俺は教師。来栖は生徒。それを、『それ以外の関係』で結ぶわけにはいかないんだ。」

「……………。」

淡い期待を弾き、一気に叩かれた胸。始めからわかっていたその事実はやっぱり、私の想いを許さない。

こみ上げる失恋の痛みに俯き唇を噛み締めると、

「だから…………待っててくれないか。」

聞こえてきたのは吐息を感じるように近い、低く囁く先生の声だった。

「ま…って?」

見上げた顔は、潤んだ私の瞳に少し驚いてからクシャリと頭を撫でた。

「卒業まで、待ってくれ。

そうだな、さっき話してた高台の公園。

月がキレイなんだろ?

1年後、3月の満月の夜にそこで会えたらその時はお前を貰う。

それまでは………我慢してくれ。」


< 113 / 136 >

この作品をシェア

pagetop