今宵、月が愛でる物語
「おい、市原!」

「はい社長。準備できてます!」

会議用にまとめておけと言われていた資料をぱさりと手渡すと、背の高い社長は満足そうに私の頭にポンポンと触れ、その手をスルリと降ろして誰にも気付かれないくらいそっと耳朶に触れた。

「…っ!?」

「よし、合格。」

私の反応を確認しながらみんなには見えないようにニヤリと口角を上げる。


この顔を、みんなは知らない。


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