今宵、月が愛でる物語
私は……

「美文?」

「………だから、私が泣いているのが分かったの?

私をずっと、見てくれていたから?」

一瞬、その手がピクリと動いて…柔らかい笑顔が向けられる。

「そうだよ。ずっと美文を見てきた。

好きなケーキも知ってるし、キライな科目も知ってる。

パソコンが苦手なことも、免許取ったら乗りたいと思ってる車も、…おとといの夕食のおかずも。」

「…おかずって……ふふっ。それって、ママがおばさんとしてる井戸端会議の内容じゃない?」

自然と、笑みが零れる。

「なんでもいいだろ?そうやって笑って欲しいんだ。

俺の隣で、そうやって笑ってよ。

な。……………美文。」

沁みるような言葉と、温かい掌の温もり。


それらに導かれるように、私は返事を返す。


「……………うん。

わかった。

私にも、チャンスをちょうだい。

…奏一を好きになるチャンスを。

いきなり「はい次!」ってはできないけど、もう前を向かなきゃって思うから…。

だから…!」

彼の掌に、私も手を添える。




「チャンスを、ください。」




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