今宵、月が愛でる物語
「で?何を思ってたんだ?」

「え?あ…ありがとう。」

散々私を弄んだその逞しい上半身をソファから起こした千景さんが、昼寝用に常備しているタオルケットを火照りの冷めかけた私の肌に掛けて問う。

「お前の声。スゴイ切なそうっていうか…いつもそういう感じ少しは含んでるけど今日はとくにそう感じた。

……もしかしてもう終わりにしたいとか?」

「……………。」

言葉が出なかった。

私がいつも感じていた切なさに、ちゃんと気づいていたなんて。

今日は特に、それがこみ上げていたことにも気付いていたなんて。

「………葵?」

月明かりを斜め上から受けて影になる彼から静かに響く私の下の名前。

「……………はい。終わりにします。

愛人になる気はないですから。」

彼の表情は見えないけれど、にこりと笑顔を作って彼を見つめ返す。

しがみつくような湿った女になるのはゴメンだから。



これでおしまい。



そう、思った時だった。



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