今宵、月が愛でる物語
「……………はぁ。やっぱりな。」

力が抜けたようにソファにもたれ、千景さんは呆れたように私を見つめた。

その胸には私が無意識につけた紅い印がクッキリと見える。


手放すと決めたクセに所有印を残すなんて……自分でも笑えるよね。


「………見合いで結婚が決まったって噂が出てるんだろ?」

「あ、…はい。え?……わっ、とっ!」

もやもやした頭と心でその印をぼーっと見つめていると、突然伸びてきた逞しい腕にタオルケットごと抱えられて横抱きに膝に乗せられる。

「噂出てるって知ってたんですか?でも間違いないって関さんが言ってましたよ?」

関さんは社長とこの事務所を立ち上げた人物だ。この人が話したからこそ、私はそれを信用した。

「いや、それはガセだ。見合いはさせられたがすぐ断って帰ってきた。」

「へ?何それ…………。」

「…お前………」

呆気にとられ思わずじっと千景さんの顔を見つめてしまうと、さっきまで私を好き放題していた指先が耳たぶをそっと撫でた。

「………?」

その表情は柔らかくて、もしかして少しでも愛されてるのかと錯覚してしまう。


お見合いがガセなら、まだこの関係は続けられるのかな。


まだ、こんな風に優しくしてもらえるのかな。


そう、期待してしまった時。


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