今宵、月が愛でる物語
給湯室でポットのお湯を沸かし直す。

コーヒーは…来客用のドリップをいただいてしまおう。

お気に入りのシンプルな白いマグ。

疲れた脳のために砂糖は二つ。

ミルクはひとつ。

「んー、いい香り。これでもうひと頑張りできそうだな~。」

ひとり言を盛大に言って口をつけようとしたその時…


「おい、早瀬晶。来客用で一服か?」


後ろから届く声にドキリとした。

「あつっ!……課長!」

思わずマグを揺らして胸元にコーヒーがかかる。


……あぁ、やってしまった。


「あっ、おい!ヤケドするだろうが!」

咄嗟に手元のふきんを水で濡らして絞り、差し出してくるこの人は私の直属の上司だ。

「…課長。大丈夫です。これくらい平気ですよ。」

ふきんを受け取りながらそう言い、胸元を軽く拭ってまたふきんを洗う。

感触では恐らくキャミソールまで染みているだろう。

ジタバタしたところで仕方ない。

「はは。
来客用を開けちゃったバチですね。すみません…。

じゃ、仕事に戻ります。」

そそくさとマグの汚れを拭き、デスクに戻った。



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