今宵、月が愛でる物語
私より確か6ツくらい年上のはずの課長は大人の色気を纏った男だ。

軽くパーマのかかった髪型とクッキリとした二重まぶた、すっと通った鼻筋。

同期より出世が早く、仕事は完璧という好条件は様々な女子社員を虜にしては蹴散らせていったそうだ。

何より真剣に的確に仕事をこなしていく姿は群を抜いてかっこよかった。

私もほんのひと時淡い恋心を抱いたけれど…。

男性社員にも食ってかかって負かすような可愛くない女を誰が相手にするものかと…その想いを自分で封印した。

「……えーと、先輩は急用ができたんで私が引き受けたんです。

ちゃんと終わらせてから帰るので心配いりませんよ。

課長はお先に帰ってくださいね。」

彼の顔を見ることなくそう答え、作業を続ける。

押し付けられたなんて口が裂けても言いたくなかった。見抜けなかったのは自分のミスだもの。


子供の頃からそうだった。


身長が小さいことがコンプレックスだった私はそれを理由にからかわれたり庇われたりするのが大嫌いで、その延長で大人になってからも常に対等に扱われることを望み、負けることも助けられることも大嫌いだった。

以前付き合っていた彼氏すら、口げんかの果てに泣かせて別れた。

…そうして生きてきた結果、生意気と感じる人たちにはこうして知らぬふりして無理を押し付けられることも多かった。

気をつけてかわすようにはしていたのに今日は…引っかかってしまったのだ。



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