今宵、月が愛でる物語
「………はぁ。手伝うよ。どこまでいった?

俺のパソコンにデータ送って。」

……やっぱり。

元来仕事熱心で部下に慕われている彼がそう言い出すのは予想がついた。

ワザとやらせられたことにも気づいているのだろう。

でも私は…

「いえ、やります。自分に振られた仕事を明け渡すなんてお断りです。

課長はお帰りください。」

語気を強めてそう言うと無視をするように手を動かす。

「…早瀬。」

「………」

「おい早瀬。」

「………」

カタカタと、私のうつタイピングの音だけがオフィスに響く。


………次の瞬間。



ガタッ

カツカツカツカツ…


「おいっ!」

手首を掴まれ、無理やり椅子ごと課長の方を向かされた。

「…やっ!」

「…お前なぁ。負けん気の強い完璧主義はいいけど人を頼ることもいい加減覚えろ!

俺はなんのための上司だ?

たまには寄りかかれよ!」

「……っ!…あ………はい…。」

いつになく厳しい口調はきっと本当に心配してくれてるんだろう。

「…っと、悪い。……あ、じゃあ…データ送って。」

バツが悪そうに掴んでいた手を離し、デスクに戻る課長。


「………送りました。チェックお願いします。」



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