今宵、月が愛でる物語
「終わり……ですー。」

残りを仕事の早い課長と片付けても終わったのはその2時間後だった。

「お疲れ。頑張ったな。」

「いえ、私一人だったら間違いなく日付かわってました。

…ありがとうございました。」

お礼とともに、滅多にしない笑顔を向けると、マグを片付けてオフィスに戻り、窓辺で外の月を見た。

「あ…。」

ビルの隙間に収まっていたはずのその姿はとうに高く高く上空へと上がり、まるで解き放たれた開放感を味わうように煌めいて見えた。

「…あーあ、先越されちゃったな。」

クスリと笑って見つめていると突然、背後に近づく気配を感じてハッとする。

「!」

気づけば後ろにいる課長がピッタリと覆いかぶさるように立ち、その両手を窓辺の私の両手の上に添えていた。



< 23 / 136 >

この作品をシェア

pagetop