今宵、月が愛でる物語
「はぁっ。…はぁ~。」

4階に上がる途中の踊り場で一旦休憩する。

疲れた身体で一気は流石にしんどい。

「……ふぅ。頑張ろ。」

気合を入れ直してまた上がっていくと聞き覚えのある声にふと呼び止められた。


「柏崎。待てよ。」


ビクリと飛び出しそうな心臓を抑えるように両手を胸に当てて声のする方を向くとそこにいたのは同期の青柳君だった。

新人研修で同じグループになり、話をするようになった彼。


それから2年。


配属は別だったけど会えば気軽に挨拶する仲間うちのひとりだった。

「…っ!……びっくりするじゃん。

何でこんなところにいるの?残業?」

まくしたてるように問うと青柳君はいつになく真剣な表情でゆっくりと近づいてきた。

「……お前を待ってた。」

「ん?わた…し?」

思いがけない返事に声がどもってしまう。

……今まで見たことのない顔。思いつめたような、苦しそうな、怒っているような。

ムードメーカーでいつも笑顔の彼がこんな表情をすることはないのに。



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