今宵、月が愛でる物語
両手首に何度も何度も口づけられ、その唇は頬へと移動して行く。


…ちゅっ…ちゅっ。


「んっ。」

艶かしいその音と柔らかい唇にくすぐったさで思わず出てしまう声。

響也さんがそんな私の反応を見逃すはずもなく、弄ぶような視線を向けられてしまう。

「沙良…?どうしたの?

ふふ、感度良くなってるでしょ。

いい子だね。……ここも、だろ?」

次の瞬間、貪るように首筋を這ってくる唇。

「あっ!ダメです。そんな…っ!」

耳元から鎖骨まで、右も左も、訳がわからなくなるくらいに攻められる。

舐めるように…喰むように…吸い付くように…どこまでも攻め立てられ、思考さえ絡め取られてしまう。

「響也さ…ん。」

掠れた声で名前を呼ぶだけで精一杯の私は必死で掴んでいた彼のスーツさえ手放してしまい……、

全てを彼に委ねてしまう。

「……あれ。やりすぎだったかな?」

唇を離し、放心状態の私をニヤリと見つめるその姿は悪戯っ子に大人の色気を混ぜたような、彼特有の雰囲気を醸す。

「…ワザとですよね?」

「そう思う?」



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