今宵、月が愛でる物語
開発と研究のため会社から渡英を命じられ、『ついてきて欲しい』と思い切ってプロポーズした2年前。

早くに父を亡くしてから女手ひとりで自分を育ててくれた母を置いて海外なんて行けないと泣いた詩帆の気持ちを汲み、必ず帰ると約束してひとり海を渡った。

メール、スカイプ、電話。つながる方法はいくらでもあった。

でも…いつも心の奥が寂しかった。

触れ合えない切なさは、もうとっくに限界だった。


詩帆…。愛しい詩帆。


君も同じ気持ちを、この2年持ってくれていただろうか。

飛行機の外にはもう、かつてふたりで過ごした街が煌めいているはず。


もうじき、君の待つ場所に帰れる。


俺の、俺だけの場所。


詩帆…詩帆………詩帆。


お前を想い、指先まで心臓になったように脈打つ。


辛くて寂しい思いをさせてしまった分、今日はたくさん、飽きるほど甘やかしてあげるよ。



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