今宵、月が愛でる物語
ゲートから出てきたその姿は一目でわかった。私が誕生日に贈ったトレンチコートを羽織っていたから。

「…っ!琉偉!」

愛しい人の名前を呼び、その一点に導かれるように人混みをかき分けて駆け寄ると、喜びで震える足がどうにももどかしくて転んでしまいそうだった。

すぐ目の前まで行くと、2年前よりさらに大人びた表情になったその人は荷物を置き、切なそうに両手を広げて私を迎える。

「詩帆!……ただいま。」

「……っ!」

ぼふっと音がするほどの勢いでその逞しい胸に飛び込んだ私をしっかりと受け止めてくれた琉偉。

この仄かに爽やかな香り、この機械越しじゃない声、この穏やかな温もり。


全てが恋しい。


全てが愛おしい。


「…琉偉っ!…琉偉。おかえりなさ…」

とめどなく溢れる気持ちを全てあなたに届けたいのに…空回るばかりでうまく言葉にのってくれない。

大好きな大好きな私の琉偉。


世界で一番愛しい人。


出逢った頃と変わらないパーマがかった髪型も、

笑顔になるとふにゃりと下がってしまう眉も、

私を抱きしめる時必ず髪に顔をうずめる仕草も、

全部、この身体で感じたかったんだよ。

「…っ…ふ…ぅっ。

琉偉…琉偉…会いたかった。会いたかったの。」

次から次へとこぼれ落ちる涙はもう止められる方法なんてなかった。

そしてそんな私に応えるように、琉偉は私をギュッと抱きしめたままうんうんと頷いてくれた。


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