今宵、月が愛でる物語
やっと胸に抱けた愛しい愛しい女。

この声、この香り、この温もり。

彼女の全てが俺の心に沁みて満たされていく。


サラリと丁寧にブローされた髪も、

泣くとすぐに紅くなる頬も、

俺が抱きしめると背中をぎゅっと抱きしめ返す仕草も、

俺が欲しかったものは全てここにある。

「帰ってこれてよかった…。」

安堵の溜息が、深く深くこぼれ落ちた。

そして『会いたかった』と素直に泣いてくれた詩帆。

俺の名前を読んでくれる声は、淀みない鈴の音の様に心を震わせた。

だけどね、同時に詩帆の涙は俺の涙も誘ってしまうんだよ。

それがバレないよう、俺は……うんうんと、頷くので精一杯だった。



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