今宵、月が愛でる物語
「おいで、詩帆。」

そう言って琉偉は私の手を引き、今日のためにリザーブしたというホテルへ入った。

最上階スィート。

夜景と月の光が競い合い、輝きを放つ景色。

「凄いね、キレイな街。自分がこの街で暮らしてるなんて嘘みたいだよ。ね、琉偉。」

外を眺めたまま、彼にそう話しかける。

『お子ちゃまみたいにグーグー寝るお前には夜景なんて関係ないだろ』

いつもならそんな憎まれ口を叩いてくる琉偉なのに…今日は違った。

「……詩帆の方がキレイだよ。

このワンピ、かわいい。すごく似合ってる。

俺に見せるために選んだんだろ?」

いつもは出すコトのない低くて甘い声で艶やかに囁いたかと思うと後ろから抱きしめられ…気がつくと身動きさえ取れなくなっていた。

「…っ!」

久々の再会にただでさえドキドキしているというのに、琉偉が好きそうなデコルテの空いたワンピをセレクトしたことを読み取られ、畳み掛けるように妖艶に振舞われて心臓は爆発寸前だ。

「詩帆…!」

まるでこれまでの寂しさを昇華させるかのように私の名前を静かに、でも存在を確かめるように力強く呼ぶ琉偉。

その腕と身体は隙間なくぴったりと私に寄り添う。

「…っ!琉偉。今日なんか、いつもと違う。」

その甘さはやっと触れ合えた喜びからか、海外生活で身についたものか。どちらにしろ擽ったく耳に響き、背中をぴくりと刺激する。

「…そう?今日はめいっぱい甘やかすって決めてたから。

詩帆、甘いもの大好きだろ?

だから俺もとろけるくらい甘くなる。」


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