今宵、月が愛でる物語
「詩帆。…なぁ、覚えてる?

俺たちが出逢ったのも月明かりの下だった。

告白したのは、三日月の夜だった。」

突然琉偉がそう切り出したのは出逢った時のことだった。

終電ギリギリで駅への道を走っていて運悪く途中でヒールが折れた私。

足をくじいて動けなくなってしまった時に声をかけてきたのが琉偉だった。

「ヒール折れるとか。くっくっく。
あるんだな。そういうこと。」

ちょっと失礼な物言いをしながらもそのあとちゃんと駅の救護室まで肩を貸してくれたことをハッキリと覚えてる。

「…2年前飛行機に乗ったのは満月の夜だった。機内の窓から見える空港で、残して来た詩帆が寂しがって泣いてると思うと…苦しかった。」

……やっぱり、気づいていたんだ。見送ってから暫く泣いたままそこに居たって。

「だから今夜、このいつも俺たちを見守ってきた月の下で、もう寂しい思いはさせないって誓うよ。

そのためにここを選んだんだ。

月に一番近い場所を。」

耳元で落とされる言葉は私の心の中でパズルのように組み上がっていく。

「それ……って………っ!」

くるりと彼の方を向かされ、真剣な眼差しを刺される。

その瞳に釘付けになっているとひんやりと、左手に違和感を感じた。

「あ……」

一瞬にして組みあがるパズルとその答え。

彼に持ち上げられた左手には、2年前一度断ってしまった指輪が光っていた。


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