今宵、月が愛でる物語
「ウソ!?ない!」

会社の帰り、もう駅に着いたというのに定期が見当たらない。

時刻はもう9時。ラッシュの時間はとうに過ぎ、サラリーマンやOLの姿もまばらになってきた。

ガサガサとバッグを探る私は、行きかう人々にはきっと滑稽に映っているだろう。

「もしかして…今朝デスクに置いてそのままだった!?」

…………はぁ、ツイてないな。

ここから会社までは15分ほど。そんなに遠くはないけれど、往復となれば話は別だ。

「……………戻ろう。」

今日は朝からホントにツイてない。

母から電話は来るし、取引先のミスのおかげで私の所属する商品部は全員で残業になったし、そのおかげで友達と約束してたランチも行けなかったし、……仕舞いにコレだ。

空を見上げれば月が輝き、まるで私を笑っているようだった。

『週末だというのに何をしているの?おバカさんだね』

そんな風に聞こえてきそうだった。



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