今宵、月が愛でる物語
「おはようございます。」

いつもと変わらぬ可愛い声で、愛しい彼女がオフィスに現れた朝。

「お、橘。おはよ。」

先に出社し、資料を広げたところだった俺はその笑顔を見るべく顔を上げて声をかけた。

「あ、黒崎さんおはようございます。コーヒー淹れますね。待っててください。」

自分のデスクに定期とバッグを置き、俺に笑顔を向けて給湯室に向かう彼女。

「おう、サンキュ。」

これは毎朝のやりとりだ。

胸より下まであるさらりとキレイなストレートヘアを淡いブルーのシュシュでまとめながら歩く彼女の後ろ姿を一目みて資料に視線を落とす俺に、後ろからそろりと声がかかる。

「黒崎。あんたも毎朝毎朝好きだねぇ。

ワザと自分でコーヒー淹れないの、バレバレだよ?」

それは俺の3つ上の先輩、三沢さんだった。社内恋愛の末結婚したばかりの彼女だが、やたらとカンがいい。

「………ほっといてください。そんなことより仕事してください?」

ヒラヒラと手を振り追い払う俺にクスクスと笑い声を残して立ち去る三沢さんはずっと俺の想いを応援してくれている。

いや、ホントはここの商品部の連中みんなに、俺が誰を好きかはバレバレだ。


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