今宵、月が愛でる物語
「………ねぇ、冬汰。知ってる?」

抱き合ったまま、僕の顔を見ることなく呟くようにそう言った菫。

「………何が?」

菫の質問なんて検討もつかない。

いつも突拍子もないことを言い出すから。

「…………あのね、」

「…うん。」

「…………私ね、」

「…うん。」

「…………冬汰が考えてるよりずっとずっと、冬汰のこと、好きだよ。」

「……………うん?」

今、何て……。

「だから、私は本当に、どうしようもないくらい冬汰が好きなの。」

「………………」

言葉が出なかった。

いきなりそんなことを言われた驚きと、

何だか安心したようなあったかい気持ちと、

嬉しくて今すぐ抱いてしまいたい気持ちと。

ごちゃ混ぜになってしまったこの心をどうしたらいいだろう。

菫の顔を見ると……

自分の落とした爆弾に翻弄されてる僕の顔がよっぽど面白かったのか、キラキラと目を輝かせてこちらを見ていた。


………なんか悔しい。


してやられてばかりでなんだか悔しい。


だから僕は、反撃することに決めたんだ。



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