ハナミツ
椿山駅、7時を回った。
綾瀬さんからは連絡はない。
やっぱり、アフレコが長引いてるのかもしれない。
「………。」
綾瀬さんから誘ってくれたから、なしにするのは
気が引けているのかも。
一言メールしてまた別の日にすれば。
「……うーん。どうするかなぁ……」
「何をどうするんですか?」
「!?」
振り返ったら、叫びそうになるのを押さえた。
綾瀬さん!
マスクは相変わらずで、紺のジャケットを着ていた。
「すみません、遅くなりました。」
「………び、っくりです。」
綾瀬さんは、ははっと苦笑した。
「行きましょうか。…和食で大丈夫ですか?」
「はい。あ、あの………」
急いで来たのか髪が少しはねている。
なおしたかったけど、人前だから仕方ない。
「………?」
「あ、大丈夫です。きょうは車ですか?」
「はい。こっちです。」
綾瀬さんは立体駐車場の方に歩き出したので、
私も後をついていった。